不動産経済コラム

不動産経済コラム

主に「不動産」と「経済」の2つのテーマにフォーカスし、最新情報をわかりやすくお伝えします。

Vol.02

地震、浸水…
災害に強いマンションとは?

2015.11.

<4>増える異常気象、マンションの共用部分は対策が重要

地球温暖化による影響か、スーパー台風やゲリラ豪雨といった「異常気象」が頻発し、毎年のように大きな被害が発生しています。「マンションの高層階に住んでいれば浸水被害にはあわない」と考えているかもしれませんが、間接的に被害を受ける可能性はあります。大規模な浸水被害が発生すれば、電気、ガス、水道と言ったライフラインが長期間にわたって利用できないケースや、エレベーターや機械式駐車場といった共用部分が被害を受けることも想定され、決して“他人ごと”ではないのです。

豪雨や河川氾濫による浸水被害に対しては、多くの市区町村単位で詳細なハザードマップがつくられ、浸水エリアや水深の予測が行われています。希望物件が位置しているエリアがどれくらいの水害リスクを持っているのか、まず確認してみましょう。「地域名×ハザードマップ」で検索すると該当ページを確認できるはずですし、国土交通省が設置した「ハザードマップポータルサイト」もあります。
ハザードマップポータルサイト:http://disaportal.gsi.go.jp/

また避難所や避難誘導については「災害対策基本法」に基づき、自治体単位での防災対策が進められていますが、近年の被害状況をみると自治体の枠を超えた広域避難が必要という課題も浮かび上がってきています。海面よりも低い「ゼロメートル地帯」を抱える東京都の江東デルタ地帯では、足立、江戸川、葛飾、江東、墨田の5区が連携した「江東5区・大規模水害対策協議会」を設立するなど、広域対策の検討もスタートしています。

もしも、希望するマンションが浸水リスクを抱えたエリアに位置しているのであれば、共用部分の災害対策も重要になります。エントランスホールやエレベーター、機械式駐車場といった共用部分は、マンション管理組合として災害対策を考えていく必要があるのです。新築マンションで、管理組合の設立以前の段階であれば、災害対策への懸念を不動産会社や管理委託会社に伝えて、対策方針を確認しておきたいものです。

また、万が一の被害から復旧を迅速に行うためには、資金面での手当ても考えておく必要があるでしょう。区分所有者の専有部分に関しては個別の火災保険&地震保険に加入することになりますが、エレベーターなどの共用施設は共有部分となり当然カバーされません。管理組合として共有部分の保険加入することも災害対策のひとつといえるでしょう。

■マンション管理組合向けの保険を知っておこう

エントランスホールやエレベーター、機械式駐車場といった共用部分はマンション管理組合として火災保険や地震保険に加入する必要があります。地震はもちろん、台風、豪雨、水害による被害もカバーされるのかといった保障内容もしっかり確認しておきたいものです。保険商品も時代によって改訂が加えられています。加入時期によってはカバー範囲が不足している可能性もありますので、中古マンションを購入する際には管理組合の加入状況も確認しておきたいものです。

価比較例


価比較例

<5>マンション内外でのコミュニティづくりが重要

もうひとつ、過去の災害の貴重な経験から、災害後の復旧・復興にはマンション内や近隣コミュニティが重要な役割を担うことが明らかになってきました。東日本大震災の際、エレベーターが長期間止まった超高層マンションでは、日頃から防災訓練を重ねていたことによって住民同士の助け合いが円滑に進んだという事例がありました。また、近隣住民とのコミュニティ形成が、災害の際にスムーズな避難誘導につながったという事例もあります。「見知らぬ他人」ではなく「顔見知りの良き隣人」の関係を築いていくことが、災害に対しても大きな力を持っているということでしょう。

最近では、地域の「防災拠点」としての指定を受けるマンションも登場しています。自治体とも連携して、近隣の住民や帰宅困難者なども対象とした「防災拠点」としての指定を受けるケースです。非常用食料や簡易トイレの備蓄倉庫、かまどベンチなどを備えて、災害時には地域住民の避難場所としても活躍することを想定したマンションです。こうした設備があれば避難訓練などを通じて、自然とコミュニティがつくられていきそうですね。 新築マンションの場合、当初はコミュニティが形成されていません。管理組合の結成を通じてコミュニティをつくりあげていくことが、防災対策の観点からも重要なポイントになっていくでしょう。行政とも連携をとりながら避難・誘導の対策をつくりあげていくことが、災害に強いマンションにつながっていくはずです。

地震や水害のリスクを踏まえたうえで、そのリスクに対応できる堅牢な建物といったハード面での充実。加えて、災害が発生した際の復旧や生活を維持していくためのソフト面で対策が練られている物件こそが、災害に強いマンションだと言えそうですね。

■停電時でもエレベーターが可動する「東京都LCP住宅」とは?

東日本大震災の際には、建物自体が損傷を受けていなくても、停電があったマンションでは、水の供給やエレベーターの運転が停止し、結果として自宅での生活が継続できないなどの影響がありました。災害の影響を最小限に抑えるために、非常用の自家発電装置等を設置して停電時でもエレベーターや給水ポンプの運転に必要な電源を確保できる住宅を自治体が認定する制度も始まっています。東京都の場合は「東京都LCP住宅(Life Continuity Performance:居住継続性能)という制度で、2015年3月時点で4棟のマンションが登録されています。防災力を強化したマンション、とも言えそうですね。

文:井村 幸治(フリーランスエディター&ライター)
2015年11月掲載

  • フリーランス&ライター

    井村 幸治 いむら こうじ

フリーランスエディター&ライター。1964年、和歌山県生まれ。リクルート(現リクルート・ホールディングス)にて不動産、ブライダル領域の編集に長年にわたって携わる。その後フリーランスとして住宅、都市開発、メディカル、ブライダルなど様々な分野で取材執筆活動を行う。東京⇒名古屋⇒大阪の転居を2回ずつ経験したことで、各都市の住宅事情にも精通。日本各地への取材、旅行経験も豊富。現在は大阪府吹田市「千里ニュータウン」在住。