不動産経済コラム

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主に「不動産」と「経済」の2つのテーマにフォーカスし、最新情報をわかりやすくお伝えします。

Vol.09

下落に転じた基準地価、
今後の動向は?

2020.10.29

  • フリーランス&ライター

    井村 幸治 いむら こうじ

フリーランスエディター&ライター。1964年、和歌山県生まれ。リクルート(現リクルート・ホールディングス)にて不動産、ブライダル領域の編集に長年にわたって携わる。その後フリーランスとして住宅、都市開発、メディカル、ブライダルなど様々な分野で取材執筆活動を行う。東京⇒名古屋⇒大阪の転居を2回ずつ経験したことで、各都市の住宅事情にも精通。日本各地への取材、旅行経験も豊富。現在は大阪府吹田市「千里ニュータウン」在住。

2020年9月29日に「令和2年度基準地価」(7月1日時点)が発表され、新型コロナウイルス感染拡大後初めての大規模地価調査ということで注目を集めました。都市部や観光地の開発を牽引したインバウンド需要が消え、商業地の需要が弱まるなか、全国の全用途平均(*1)では3年ぶりの下落となりました。首都圏各地の住宅地を中心に、地価動向の詳細をみていきましょう。
(*1)住宅地や商業地、工業地、林地なども含む、全ての用途別の土地の地価を平均した数値

1)基準地価は3年ぶりに下落に転じる

東京圏の住宅地も0.2%の下落

各都道府県が発表した2020年(令和2年)7月1日時点の基準地価は、全国の全用途平均が前年比マイナス0.6%と2017年以来3年ぶりの下落に転じました。下落トレンドから脱し、2019年には前年比0.4%と上昇の幅を拡げていましたが、2020年に再び下落したかたちとなりました。

東京圏では商業地が1.0%の上昇を維持しましたが、前年の4.9%と比較すると上昇幅が縮小、住宅地は0.2%の下落へと転じています(前年は1.1%の上昇)。

ここ4〜5年は金融緩和とインバウンド需要が牽引し、都市部の商業地やリゾート地を中心に地価上昇のトレンドが全国的に広がっていました。商業施設やホテル需要が急増し、都市部では再開発が進展、その影響が周辺エリアや住宅地にも波及し、地域差もあるものの、全体としては地価上昇トレンドが続いていました。しかし、新型コロナウイルスによって訪日客がストップし、インバウンド需要が消滅したことで、一気に状況が変化したことが浮き彫りになっています。

1月以降、この半年で大きく状況が変化

新型コロナウイルスの影響は、2020年1月1日時点の地価を調査した「公示地価」と重なる調査ポイントを比較することで鮮明になります。商業地は昨年7月の「基準地価」から今年1月の「公示地価」の間に2.5%上昇したものの、コロナの影響があった今年の「基準地価」では1.4%下落し、住宅地も0.8%の上昇から0.4%の下落に転じています。

国土交通省の資料には2020年の前半(公示地価)と後半(基準地価)で変動率が大きく変化した商業地がピックアップされています。札幌、京都、名古屋、大阪、福岡、那覇などと並んで東京都台東区の調査地点が紹介されていますが、前半が15.4%上昇、後半が11.1%下落となっています。この調査地点は台東区西浅草の地下鉄銀座線他浅草駅に近い場所です。インバウンド需要が蒸発した影響を、強く受けたことが推測されます。同じような状況が全国各地で発生していることが推測されます。

2020年前半と後半で地価変動率が大きく変化した地点(商業地)

2020年前半と後半で地価変動率が大きく変化した地点(商業地)

住宅地にも地価下落の波が広がる

こうした動きは住宅地にも影響が及んでいます。マップは住宅地の地価変動率を色別に示した図です。青系は下落エリア、赤から黄色系は上昇エリアを示しています。2019年(令和元年)のマップには東京23区に5%以上の地価上昇を示す赤のエリアがあり、その周囲へドーナツ状に地価上昇エリアが広がっていました。しかし2020年(令和2年)のマップでは赤のエリアがなくなるとともに、全体的に青のエリアが増えたことがわかります。ただ、依然として地価上昇を示す黄色やオレンジのエリアもあります。都県別に、住宅地の動きを中心にして詳細にみていきましょう。

首都圏、市区町村別の住宅地の地価変動率

首都圏、市区町村別の住宅地の地価変動率